山梨県で看板を出すとき、まず知っておきたいのが富士山周辺の特別な規制です。富士山が世界文化遺産に登録される過程で、屋外広告物が富士山の景観を損ねているという指摘を受けたことをきっかけに、山梨県は富士河口湖町を中心に「景観保全型広告規制地区」という強化ゾーンを設けました。ここでは使える色は3色まで、看板の高さは5m前後、面積は数㎡までという、通常とは桁違いの厳しさになります。さらに甲府市は中核市で独自条例を持ち、県条例は適用されません。この記事では、この構造を整理し、数値基準・手数料・罰則まで発注者目線でまとめます。制度そのものの全体像は屋外広告物条例とはをどうぞ。
まず全体像:山梨県は「県条例」「甲府市」「富士山の規制地区」の3層
| 設置場所 | 適用されるルール | 申請の窓口 |
|---|---|---|
| 甲府市内 | 甲府市の独自条例(中核市・2019年施行) | 甲府市 |
| 景観保全型広告規制地区内 (富士吉田市・鳴沢村・富士河口湖町の各一部) |
山梨県条例+景観保全型広告規制地区の強化基準 | 県(富士北麓景観対策課)・該当市町村 |
| 上記以外の県内 | 山梨県屋外広告物条例 | 県、または事務移譲された市町村 |
山梨県の屋外広告物条例は、景観条例とは別建ての独立した条例です。掲出には原則として知事の許可が必要ですが、事務が移譲されている市町村では市町村が窓口になります。甲府市だけは2019年(平成31年)4月の中核市移行にあわせて独自の屋外広告物条例を施行しており、市内は県条例ではなく市条例が適用されます。
最大の特徴:富士山を守る「景観保全型広告規制地区」
山梨県の看板規制で全国的にも際立つのが、富士山周辺の景観保全型広告規制地区です。これは県条例にもとづき「良好な景観を保全することが特に必要な区域」を指定し、屋外広告物の基準を通常より大幅に強化する仕組みです。
背景には富士山の世界文化遺産登録があります。登録の審査過程で、富士山周辺の看板が景観を阻害していると指摘されたことが、規制強化の直接のきっかけになりました。指定されているのは、県告示で定める次の9地区で、富士吉田市・鳴沢村・富士河口湖町にまたがります。いずれも市町村の全域ではなく、告示・図面で指定された各一部である点に注意してください。
- 御師住宅沿道地区(富士吉田市の一部)/横町バイパス地区(富士吉田市・鳴沢村・富士河口湖町の各一部)/富士見バイパス地区(富士吉田市の一部)
- 富士河口湖富士線地区/新倉トンネル西側地区/船津小海線地区/富士登山道線地区/インター線地区/白木里宮線地区(いずれも富士河口湖町の一部)
※ 対象かどうかは住所だけでは判断できません。設置予定地が指定範囲に入るかは、必ず山梨県の景観保全型広告規制地区のページの指定図と照合してください。
これらの地区では、富士山周辺では看板は「小さく・低く・色を抑えて」という考え方が徹底されています。規制地区の主な基準は次のとおりです。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 使用できる色数 | 3色以下 |
| 明度・彩度 | 明度2以上8以下/彩度6以下(色相がR・YR・Yなら8以下) |
| 建植広告物の高さ | 地区により5m以下(標識タイプは3m以下) |
| 面積 | 地区により1基4㎡以下・標識1㎡以下・単一2㎡以下など(いずれも数㎡単位) |
| 禁止される演出 | 回転灯・照明の点滅・表示内容が変化するもの・蛍光/夜光塗料 |
後で見る県一般の基準(高さ12〜15m・面積50㎡)と比べると、高さで3分の1以下、面積で10分の1以下という別次元の厳しさです。LED・電飾看板で光らせたり、デジタルサイネージで表示を切り替えたりする演出も、規制地区では基本的に使えません。富士山を背景にした鮮やかな大看板、という発想は通らないと考えてください。
※ 規制地区の細かな基準は地区ごとに異なり、県のPDFで定められています。富士北麓エリア(富士吉田市・西桂町・山中湖村・鳴沢村など)は県の富士北麓景観対策課が担当し、各市町村も独自の景観計画を持っています。富士山周辺で看板を出すなら、まず設置予定地がどの地区・どの市町村かを窓口で確認してください。
県一般の許可地域基準
富士山の規制地区以外で、許可を受けて広告物を出す場合の主な基準です。
| 地域区分 | 建植広告物の高さ上限 | 表示面積 |
|---|---|---|
| 第一種許可地域 | 地上から上端まで12m以下 | 50㎡以下 |
| 第二種・第三種許可地域 | 15m以下 | 50㎡以下 |
※ 上表は建植(自立)広告物の一般的な上限の目安です。自家用広告物か否か、壁面・突き出し・野立てなど広告物の種類、設置区域によって、数値の上限や許可の要否・適用除外は変わります(「50㎡」は県内どこでも共通の一律値ではありません)。実際の基準は県の手引きと管轄窓口で確認してください。
色彩は全許可地域共通で、最も面積の大きい色が明度2以上・彩度6以下(色相がR・YR・Yなら8以下)と定められています。加えて、低層住居専用地域・景観地区・風致地区・国立国定公園の特別地域・文化財の周囲・保安林・都市公園などは禁止地域に指定されています。橋・トンネル・信号機・街路樹・消火栓・郵便ポストなどは禁止物件で、そこに広告を出すことはできません。
なお山梨県は、中部横断自動車道の一部沿道500mの範囲を新たに第2種禁止地域に指定するなど、沿道の景観を守るために禁止地域を追加しているのも特徴です。自立看板・野立看板を幹線道路沿いに計画するなら、禁止地域に当たらないか確認が必要です。
手続き:申請先・許可期間・手数料
| 内容 | |
|---|---|
| 申請先 | 県管轄地域は県、事務移譲された市町村は市町村。甲府市は甲府市(都市計画課)。申請前に窓口への事前連絡が必要 |
| 許可期間 | 堅牢な広告物3年/その他の広告物2年/布製など耐久性の低いもの60日 |
| 手数料 | 面積や種類ごとに条例の別表で規定(照明ありは割増) |
手数料は看板の種類・面積で決まり、看板本体の制作費に比べれば小さな額です(看板の費用相場)。許可には期限があり、更新が必要です(→屋外広告物の許可更新/管理者の選任と点検義務)。
※ 山梨県の県収入証紙は、2025年(令和7年)12月31日で販売を終了し、2026年(令和8年)3月31日で廃止されました。手数料は現金・キャッシュレス決済や電子納付(やまなしくらしねっと)などで納付します。具体的な納付方法は申請時に窓口で確認してください。
屋外広告業の登録
看板を請け負って設置する業者は、屋外広告業の登録が必要です(登録手数料の目安1万円・有効期間5年)。山梨県内は県、甲府市内は甲府市への登録になります。営業所ごとに、屋外広告士などの資格を持つ業務主任者を置く必要があります(→屋外広告業の登録とは)。業者を選ぶときは、設置場所の自治体に対応した登録があるかを確認してください。
違反したらどうなる
山梨県屋外広告物条例では、無登録営業などに1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、知事の命令違反に50万円以下の罰金、禁止規定違反・無許可の変更などに30万円以下の罰金、届出を怠った場合などに5万円以下の過料が定められています。甲府市条例もほぼ同じ体系です。違反広告物は是正命令や強制撤去の対象になります(→違反広告物と簡易除却)。
罰金以前に現実的なリスクとして大きいのは、富士山の規制地区で基準を知らずに作った看板が、丸ごと作り直しになることです。色数・高さ・面積のすべてで通常と桁が違うため、県外の感覚で設計すると、ほぼ確実にやり直しになります。
よくある質問
Q. 富士五湖・河口湖の近くに店を出します。全国共通の看板デザインを使えますか?
A. そのままは使えないことが多いです。富士河口湖町の景観保全型広告規制地区では、色は3色まで・高さ5m前後・面積は数㎡までで、回転灯や点滅照明も禁止です。出店計画の早い段階で、富士山周辺仕様のデザインを前提に進めてください。
Q. 甲府市に出店する場合も、県の条例を見ればいいですか?
A. いいえ。甲府市は中核市で独自条例を持ち、県条例は適用されません。申請先も甲府市になります。市の屋外広告物担当課で確認してください。
Q. なぜ富士山周辺だけこんなに厳しいのですか?
A. 富士山の世界文化遺産登録の審査で、屋外広告物が富士山の景観を阻害していると指摘されたことがきっかけです。世界遺産としての価値を守るため、県は通常より格段に強い基準の規制地区を段階的に指定してきました。
Q. 自分の店に自分の店名の看板を出すだけでも許可は要りますか?
A. 一定の面積までは許可不要の緩和がありますが、富士山の規制地区では面積・色・高さの上限が非常に厳しいため、実質的に事前確認が欠かせません。まず窓口へ相談してください。
Q. 申請は自分でできますか?
A. 制度上は可能ですが、山梨は富士山周辺の地区区分が複雑で、申請前の事前連絡も求められます。屋外広告業の登録がある地元の看板屋に、設計と申請をまとめて任せるのが現実的です。山梨県の看板屋はエリアから探すで探せます。
まとめ:山梨は「富士山周辺」で全国屈指の厳しさになる
要点は4つです。①山梨県の屋外広告物条例は独立条例で、甲府市は中核市の独自条例(県条例が適用外)。②最大の特徴は富士山(富士河口湖町)の景観保全型広告規制地区で、色3色以下・高さ5m前後・面積数㎡・回転灯や点滅の禁止という別次元の厳しさ。③きっかけは富士山の世界文化遺産登録で景観阻害を指摘されたこと。④県一般の許可地域は高さ12〜15m・50㎡・彩度6以下が目安。
——富士山という世界的な景観資産を抱える山梨では、看板規制は「厳しすぎる制約」ではなく、その土地の価値を守るためのルールです。景観に溶け込む品のいい看板は、富士山のふもとではそのほうが選ばれる看板になります。地区区分の判定から事前相談・申請まで任せられる地元の看板屋を早めに見つけるのが、遠回りのようで最短です。同じく景観規制の厳しい長野県(軽井沢)や石川県・金沢市の例も参考になります。
関連ガイド:看板の法令ガイド/看板の種類ガイド/看板づくりガイド(総合)
※ 本記事は執筆時点で公開されている山梨県・甲府市・富士河口湖町などの条例、施行規則および各公式サイトの公表内容にもとづく一般的な解説です。景観保全型広告規制地区の基準・数値・禁止地域・手数料・罰則は改正される場合があり、区域の境界や個別の物件がどの区分に当たるかは現地の判断を要します。実際の設置にあたっては、甲府市は甲府市、それ以外は設置場所の市町村または山梨県(富士北麓は富士北麓景観対策課)の屋外広告物担当窓口および専門業者に必ずご確認ください。



