石川県で看板を出すとき、多くの人が最初につまずくのは「石川県 屋外広告物条例」で検索しても条例が出てこないことです。理由は単純で、石川県には「屋外広告物条例」という名前の条例が存在しないから。規制はいしかわ景観総合条例という別の条例の中にあります。しかも金沢市だけは県の条例が適用されず、市の独自条例。その金沢市は、窓の内側に貼った広告まで規制するという全国的にも珍しいルールを持っています。この記事では、この少し変わった三段構造を整理し、面積・高さ・色彩の数値基準、許可手数料の実額、屋外広告業の登録の特例まで、発注する側の目線でまとめます。制度そのものの全体像は屋外広告物条例とはをどうぞ。
まず結論:石川県の看板ルールは「金沢市か、それ以外か」で真っ二つ
最初にこれだけ押さえれば、調べる方向を間違えません。
| 設置場所 | 適用される条例 | 申請先 |
|---|---|---|
| 金沢市内 | 金沢市屋外広告物等に関する条例(平成7年条例第58号) | 金沢市 景観政策課 |
| 金沢市以外の全市町 (小松・七尾・輪島・加賀・白山・野々市 ほか) |
いしかわ景観総合条例 第五章「広告物の規制等」 | 管轄の土木事務所・土木総合事務所(県内9か所) |
石川県の公式ページにも「石川県の区域(金沢市を除く)で、屋外広告物を表示するときは、いしかわ景観総合条例に基づく手続きが必要です」とはっきり書かれています。県内で独自の屋外広告物条例を持つのは金沢市だけです。七尾市や輪島市、加賀市などに独自条例はなく、県条例で運用されています。
※ ここは石川県の実務でいちばん事故が起きるポイントです。「石川県のルール」を調べて金沢市の物件に当てはめると、まるごと間違いになります。金沢市は中核市として独自条例を制定しているためです。
なぜ「屋外広告物条例」が無いのか——景観の条例に統合されている
石川県は2008年(平成20年)にいしかわ景観総合条例を制定し、景観法にもとづく景観計画・眺望景観の保全・屋外広告物の規制を1本の条例に統合しました。屋外広告物のルールは、その第五章(第47条〜第94条)にまとめて置かれています。
多くの都道府県が「○○県屋外広告物条例」という単独の条例を持つなかで、これは珍しい作りです。実務上の意味は次の2つ。
- 検索で見つけにくい:条例名で探すと出てこないので、「いしかわ景観総合条例 第五章」または県の屋外広告物のページから入る必要があります
- 景観と地続きで審査される:看板の規制が景観計画・眺望景観の保全と同じ条例に同居しているため、「周囲の景観に合うか」という観点が制度の前提になっています。数値さえ満たせば何でも通る、という発想では設計が通りにくい構造です
金沢市の最重要ポイント:窓の内側の広告まで規制される
金沢市の条例で、他の自治体を知っている人ほど驚くのが「特定屋内広告物」の規制です。2022年(令和4年)7月1日から施行されました。
屋外広告物の規制は、名前のとおり普通は「屋外」の広告が対象です。ところが金沢市は、建物の内部から屋外の公衆に向けて表示する広告も規制対象にしました。市の定義は「建築物内部から屋外の公衆に常時または一定の期間継続して表示する広告物で、文字、記号、図案、商標や写真を表示するものまたは可変表示装置を使うもの」です。
つまり、こういうものが対象になります。
ただし通常の商品見本やマネキンは対象外とされています。「商品を並べて見せる」のと「広告を表示する」の線引きです。
面積の基準と、2027年6月に切れる経過措置
特定屋内広告物には面積の上限があります。市内全域に適用される開口部(窓)の基準は次のとおりです。
| 位置 | 表示できる上限 |
|---|---|
| 1階以下の開口部 | 開口部の面積の5割以内 |
| 2階以上の開口部 | 開口部の面積の3割以内 |
そして見落としてはいけないのが経過措置です。施行時にすでに設置されていたものには5年の経過措置が設けられました。2022年7月1日の施行から5年ですから、2027年6月末で切れる計算になります。
※ 金沢市内で、施行前から窓に大きく広告を貼っている店舗は、経過措置の期限までに基準に合わせる必要があります。窓を大きく使った販促をしている業種(不動産・学習塾・携帯ショップなど)は、早めに現状を確認しておくと安全です。実際の適用可否と期限は、必ず金沢市 景観政策課へご確認ください。
なお、屋内の広告が「まちなか区域」という区域で重点的に規制される点も特徴です。藩政期以来の都市構造が残る区域が対象で、区域の範囲は市の詳細図や「金沢市まちづくり支援情報システム」で確認できます。
金沢市の数値基準——禁止地域が6種類に分かれている
金沢市は禁止地域を第1種から第6種まで細かく分けています。禁止地域といっても、自分の店・自分の事務所の広告(自家用広告物)は面積を絞れば出せる、という作りです。
| 禁止地域の種別 | 自家用広告物の面積の上限 |
|---|---|
| 第1種 | 5㎡以内 |
| 第2種・第3種 | 10㎡以内 |
| 第4種 | 15㎡以内 |
| 第5種 | 高さ8mを超える部分は15㎡以内 |
| 第6種 | 20㎡以内 |
高さと出幅の規格も、種別で段階的に変わります。
| 種類 | 第1〜3種 禁止地域 | 第4種 禁止地域 | 第5・6種・許可地域 |
|---|---|---|---|
| 壁面広告の上端(→壁面看板) | 地上6m以下 | 地上6m以下・10㎡以内 | 地上12m以下 |
| 突出広告の出幅(→袖看板) | 外壁から1m以下 | 1.5m以下 | 1.5m以下 |
| 独立した自家広告物の高さ(→自立看板) | 4m以下(第1種)/6m以下(第2〜4種) | 6m以下 | 6m以下 |
光る看板にも制限があります。発光式・反射式の素材は第1〜3種の禁止地域では使用禁止、第5種でも高さ8mを超える部分は禁止。映像が変わる可変表示装置は第1〜4種の禁止地域で設置禁止で、第5種でも高さ8m以下・上端は地上4m以下・壁面方向ごと5㎡以内という厳しい枠です。LED看板やサイネージを金沢市内で計画するなら、場所によってはそもそも光らせられないことを前提に考えてください。
※ 「東山ひがしは第◯種」といった区域と種別の対応は、本記事では断定しません。条例の別表と区域図の突合が必要で、区域の境界は現地で微妙な判断になることがあります。物件ごとの種別は「金沢市まちづくり支援情報システム」または景観政策課の窓口で必ず確認してください。
禁止物件に「石垣」が入るのが金沢らしさ
禁止物件(そこに広告を出してはいけない物)には、橋りょう・街路樹・信号機・消火栓・郵便ポスト・送電塔・銅像などの一般的な項目に加えて、石垣が挙げられています。城下町の景観を守るための項目で、金沢市の条例の性格がよく表れています。さらに、市の独自条例で定めた伝統環境保存区域やこまちなみ保存区域が、屋外広告物条例の禁止地域に取り込まれています。
石川県(金沢市以外)の基準——色彩がマンセル値で決まっている
金沢市以外の市町で効いてくるのが、いしかわ景観総合条例の施行規則にある基準です。特徴的なのは色彩が数値で明示されていることです。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 色彩(禁止地域) | マンセル色相 Y・YR は彩度10以下/それ以外の色相は彩度8以下 |
| 壁面利用広告板・広告塔の高さ | 地上13m以下(大規模店舗等を除く) |
| 地上に設置する広告物(禁止地域) | 7〜10m以下(地域区分による) |
| 案内誘導広告物(禁止地域) | 4〜7m以下 |
| 壁面利用の表示面積(壁面100㎡以内) | 20㎡以内かつ壁面の1/2以下 |
| 壁面利用の表示面積(壁面100㎡超) | 壁面の1/5以下 |
| 自家用広告物(禁止地域) | 15㎡以内 |
マンセルの彩度で言われてもピンと来ないと思いますが、実務的にはこう理解してください。Y(黄)・YR(黄赤)系は彩度10まで許され、赤や青は彩度8まで。つまり土や木を思わせるベージュ・茶・くすんだ黄色系には比較的寛容で、鮮やかな原色の赤・青は通りにくいということです。全国チェーンの鮮烈な赤い看板が、地方の景観規制エリアだけ落ち着いた色に変わっているのを見たことがあるはずです。あれがこの手の基準の結果です。
面白いのは、県と金沢市で規制の力点が違うことです。県はマンセル値による色彩基準が目立ち、金沢市は発光・反射素材や可変表示装置の可否を細かく定めているのが特徴です。ただしこれは力点の違いであって、「照明は金沢市だけの話」という意味ではありません。実際にはどちらの区域でも、色彩・大きさ・高さ・照明などの基準を設置場所の区分ごとに確認する必要があります。
手続き:申請先・許可期間・手数料
| 金沢市 | 石川県(金沢市以外) | |
|---|---|---|
| 申請先 | 金沢市 景観政策課 | 管轄の土木事務所・土木総合事務所(県内9か所) |
| 許可期間 | 広告板・広告塔・野立広告:3年以内/はり紙1月・幕類2月/置看板等:1年以内。優良な意匠は6年の特例あり | 耐久構造の広告板:3年以内/はり紙1月以内/簡易広告物2月以内/電柱・置看板等1年以内 |
| 手数料の納付 | 市の定めによる | 石川県証紙を指定用紙に貼付 |
許可は期限が来たら更新が必要です。看板は一度立てたら終わりではなく、許可の期限管理と点検がついて回ります(→屋外広告物の許可更新/管理者の選任と点検義務)。
金沢市の手数料は金額が条例で決まっている
金沢市は条例の別表で手数料の金額を明示しています。目安として実額を挙げます。
- 広告板(発光・照明あり):3㎡につき 1,860円
- 広告板(発光・照明なし):3㎡につき 1,240円
- 立看板:1個 250円/はり紙:100枚 400円/はり札:1枚 50円
- 電車・自動車:1個 370円/路線バス:1台 10,000円
見てのとおり看板そのものの制作費に比べれば、許可手数料は小さな額です(看板の費用相場)。「手数料が高いから申請しない」という判断は、後述の罰則を考えるとまったく割に合いません。
※ 石川県側の許可手数料の金額は、県のページ・条例・規則の別表に金額の記載が確認できなかったため、本記事では金額を示しません。申請先の土木事務所へご確認ください。金沢市の手数料も改定されることがあります。
屋外広告業の登録——石川県は「二重登録できない」珍しい仕組み
看板を請け負って設置する側の話ですが、発注者にとっても業者選びの判断材料になるので触れておきます。
屋外広告業の登録は、県と金沢市がそれぞれ持っています(どちらも有効期間5年)。金沢市の登録は営業所が市内にあるかどうかを問わず、市内で表示・設置工事を行うなら必要です。県外の業者が金沢市の仕事を請けるなら、金沢市の登録(または次の届出)が要る、ということです。
そして2024年(令和6年)7月から特例届出制が始まりました。
- 県に登録がある業者は、金沢市に届け出れば市の登録があるものとみなされ、市内で営業できます
- この場合、登録証に代えて特例届出済証が交付されます
- 県に登録がある業者は、金沢市に登録・更新はできません(=二重に登録するのではなく、届出に一本化する仕組み)
「県登録があるなら市にも登録しておこう」ができない、という点が独特です。石川県で業者を探すときは、市の登録か、県登録+特例届出済証かのどちらかを持っているかを見れば十分です。登録制度そのものの意味は屋外広告業の登録とはで解説しています。
違反したらどうなる——罰則は県も市もほぼ同額
| 違反の内容 | 金沢市の条例 | いしかわ景観総合条例 |
|---|---|---|
| 無登録営業・不正登録・営業停止命令違反 | 1年以下の拘禁刑 または 50万円以下の罰金 | |
| 是正命令などの命令違反 | 50万円以下の罰金 | |
| 禁止地域での違反表示・無許可設置など | 30万円以下の罰金 | |
| 立入検査の拒否など | 20万円以下の罰金 | |
| 届出義務違反など | 5万円以下の過料 | |
県・市で金額の体系はほぼ同じです。罰金以前に現実的なリスクとして大きいのは、是正命令で看板を作り直しになることと、違反広告物として撤去の対象になることです(→違反広告物と簡易除却)。店の顔である看板を、開店直後に外す羽目になるのがいちばんの損害です。
よくある質問
Q. 「石川県 屋外広告物条例」で検索しても出てきません。廃止されたのですか?
A. いいえ、もともとその名前の条例が無いだけです。石川県の屋外広告物の規制はいしかわ景観総合条例の第五章にあります。県のサイトの「屋外広告物」のページから入るのが確実です。
Q. 金沢市に店を出します。石川県の基準を満たしていれば大丈夫ですか?
A. いいえ。金沢市内は県条例の適用外で、金沢市屋外広告物等に関する条例が適用されます。県の基準は関係ありません。申請先も金沢市 景観政策課になります。
Q. 屋内の広告まで規制されるというのは本当ですか?
A. 金沢市では本当です。特定屋内広告物として、窓の内側の広告や、屋内から外に向けたサイネージが規制対象です(2022年7月1日施行)。開口部の1階以下は5割以内・2階以上は3割以内が基準です。既設のものには5年の経過措置があり、2027年6月末で切れる計算になります。
Q. 金沢市内でLEDの光る看板は出せますか?
A. 場所によっては出せません。発光式・反射式の素材は第1〜3種の禁止地域で使用禁止、映像が変わる可変表示装置は第1〜4種の禁止地域で設置禁止です。まず物件がどの区域かを確認してから、光らせる前提で設計するか決めてください。
Q. 七尾市や加賀市に店を出す場合は、市の条例を調べるのですか?
A. その必要はありません。石川県内で独自の屋外広告物条例を持つのは金沢市だけです。それ以外の市町は、いしかわ景観総合条例が適用され、管轄の土木事務所が窓口になります。
Q. 申請は自分でやるべきですか?
A. 金沢市は区域区分が6種と細かく、区域の判定そのものに実務経験が要ります。屋外広告業の登録がある地元の看板屋に、設計と申請をまとめて任せるのが現実的です。石川県の看板屋はエリアから探すで探せます。
まとめ:石川県は「調べ方」を間違えると全部ズレる
要点は4つです。①石川県に「屋外広告物条例」は無く、規制はいしかわ景観総合条例の第五章にある。②金沢市だけは県条例の適用外で、独自の市条例が適用される(県内で独自条例を持つのは金沢市のみ)。③金沢市は窓の内側の広告まで規制するという全国的にも珍しい自治体で、既設分の経過措置は2027年6月末で切れる。④県は色彩をマンセル彩度で、金沢市は発光素材の可否と6段階の禁止地域で縛るという、まったく違うアプローチを取っている。
——石川県、とくに金沢は、日本でも有数の「景観に厳しい」エリアです。ただ、それは裏を返せば街並みそのものが集客資産になっているということでもあります。ルールに合わせた落ち着いた看板は、我慢の結果ではなく、金沢の街ではそのほうが選ばれる看板になります。区域の判定から申請まで任せられる地元の看板屋を早めに見つけるのが、遠回りのようで最短です。金沢市内での発注先さがしと街区ごとの看板の考え方は金沢市で看板屋を探すにはにまとめています。
関連ガイド:看板の法令ガイド/看板の種類ガイド/看板づくりガイド(総合)
※ 本記事は執筆時点で公開されている石川県・金沢市の条例、施行規則および各公式サイトの公表内容にもとづく一般的な解説です。禁止地域の区域区分・数値基準・手数料・経過措置・罰則は改正される場合があり、区域の境界や個別の物件がどの区分に当たるかは現地の判断を要します。実際の設置にあたっては、金沢市内は金沢市 景観政策課、それ以外の市町は管轄の土木事務所(いしかわ景観総合条例の担当窓口)および専門業者に必ずご確認ください。



