ピクトサイン(ピクトグラム)は、トイレ・非常口・車椅子など、言葉を使わず「絵」で伝えるサインです。誰にでも一目で伝わり、外国人にも子どもにも届く——だからこそ、勝手にデザインしていいもの/規格に従うべきものの線引きや、何mm角にすれば見えるのかを知らずに発注すると、後で作り直しになりがちです。この記事では、ピクトグラムという“絵記号そのもの”の選び方——規格・意味・色と形・サイズ・作ってよい範囲・素材と費用を、発注者目線でまとめます。館内の動線全体をどう設計するか(サイン計画)は案内看板・誘導サインの設計で、種類全体の比較は看板の種類まるわかりガイドでどうぞ。
ピクトサイン・ピクトグラムとは:言葉に頼らず「絵」で伝えるサイン
ピクトグラム(案内用図記号)は、文字や言語に頼らず、単純化した絵で情報を伝える視覚記号です。トイレ、非常口、エレベーター、車椅子、案内所(i)などが代表例。ピクトサインは、そのピクトグラムを板やプレートにした看板を指します。国籍・年齢・識字を問わず伝わるため、駅・空港・商業施設・病院・観光地で欠かせない存在です。近年はインバウンドやバリアフリーの流れで、小さな店舗・施設でも導入が進んでいます。
ピクトサインには、大きく「規格が決まっている定番」(非常口・トイレ・車椅子など)と、「店ごとに自由にデザインしてよいもの」(喫煙室のマークをおしゃれに、など装飾寄りのもの)があります。この違いを最初に押さえるのが、失敗しないコツです。
ピクトグラムが従う3つの規格:JIS Z8210・ISO 7001・ISO 7010
「ピクトは自由に描いていい」と思われがちですが、公共性の高いものには規格があります。ざっくり守備範囲を整理すると、次の3つです。
| 規格 | 守備範囲 | 代表例 |
|---|---|---|
| JIS Z8210(案内用図記号) | 国内の公共施設・交通機関などの案内用図記号 | トイレ・案内所・エレベーター・観光施設など |
| ISO 7001(公共案内用図記号) | 国際的な公共案内の図記号 | 各種案内サイン(国際整合の基準) |
| ISO 7010(安全標識) | 非常口・避難・警告など安全に関わる標識 | 非常口・避難経路・禁止/注意/指示マーク |
ポイントは、非常口や避難など「安全・命に関わるマーク」は規格準拠が基本で、勝手にデザインを変えると意味が伝わらず危険、ということ。一方、店内の装飾的なアイコンは自由度が高めです。なお各規格は改正されるため、採用時は最新版の番号・内容を所轄や専門業者で確認してください(規格番号は改訂で変わることがあります)。
「標準案内用図記号」とJISの関係
実務でよく参照されるのが、公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団がとりまとめる「標準案内用図記号」です。これは理解度・視認性の試験を経て整理された図記号のガイドラインで、JIS Z8210のもとになる一次情報として使われます。ガイドラインは版を重ねており(2017/2021/2025など)、実際にピクトを選ぶときは、この標準案内用図記号とJISを照らし合わせるのが確実です。
また、国のレベルでも整備が進んでいます。案内用図記号は2000年代にJIS化され、東京2020に向けた改正で国際規格との整合が図られました。近年は2024年8月の追補で「洪水・内水氾濫注意」「火災用の光警報装置」などが加わり、2025年1月にはデザイン原則と理解度試験に関する新しいJISが制定されるなど、更新が続いています。最新の項目は公的資料で確認しましょう。
定番ピクトの「正しい意味」と使い分け
定番ピクトほど、意味を取り違えたまま設置されがちです。発注前に確認したい代表例を挙げます。
- トイレ:一般トイレと、車椅子・オストメイト等に対応した多機能(多目的)トイレはマークが異なります。誰でも使える設備なら「みんなのトイレ」的な表現、といった配慮も進んでいます。
- 車椅子マーク(国際シンボルマーク):本来は「障害のある人が利用できる建物・設備」を示すもの。駐車スペースやトイレの利用対象を示す用途で、「車椅子の人専用」と狭く誤解されないような掲示が望まれます。
- 非常口:緑地に走る人(避難口誘導)と、通路方向を示す通路誘導は役割が違います。安全に直結するため規格どおりに。
- 案内所(i):インフォメーションを示す国際的な記号。観光地・施設で多用されます。
「なんとなく似ているから」で選ぶと、法定表示や避難誘導で問題になることがあります。安全・バリアフリー系は特に、用途と所轄の基準を確認してください。
色と形が持つ意味
ピクトは色と形にも意味があり、これを外すと直感的に伝わりません。
| 色・形 | 意味 |
|---|---|
| 緑 | 安全・避難・非常口(「こちらが安全」) |
| 赤 | 禁止・防火・危険(止まれ・してはいけない) |
| 青 | 案内・指示(〜しなさい・情報) |
| 黄 | 注意・警告(気をつけて) |
| 丸(○) | 指示・禁止(斜線入りは禁止) |
| 三角(△) | 注意・警告 |
装飾目的で色を変えたくなっても、安全・注意・禁止に関わるものは配色の意味を守るのが原則。店のブランドカラーを使いたい場合は、装飾寄りのアイコンに限定するのが安全です。
視認距離から決める「サイズ」の目安
「何mm角にすればいい?」——ここに答える競合記事はほとんどありません。目安として、標準案内用図記号の考え方では、視距離1mで表示する場合の最小寸法は約35mm角、地図(案内図)上で用いる場合の最小寸法は約8mm角とされています(交通エコロジー・モビリティ財団の資料より)。遠くから見せるほど大きく、というのが基本です。
高齢者やロービジョン(弱視)の方に配慮し、迷ったら大きめに。細かな視距離別の推奨寸法は資料により差があるため、設置場所の見え方(照明・混雑・掲出高さ)を現場で確認しながら決めるのが実務的です。
色覚に配慮した配色(カラーユニバーサルデザイン)
色の見え方は人によって異なります。日本では色弱者が男性の約5%・女性の約0.2%、後天的な変化も含めると約500万人にのぼるとされます(神奈川県の色使いガイドライン等)。ピクトを「色だけ」で区別させると、伝わらない人が出ます。
- 明度差・コントラストを確保する(薄い色同士を隣り合わせにしない)。
- 色だけに頼らず形・文字・位置でも区別する。
- カラーユニバーサルデザイン(CUD)の推奨配色を参考にする。
「誰にでも伝わる」がピクトの本分。せっかくの図記号を、配色で台無しにしないよう気を配りましょう。
オリジナルピクトは作ってよい?——準拠が必要な場面との線引き
結論から言うと、装飾・案内寄りは自由、安全・バリアフリー系は規格準拠が基本です。判断の目安を表にします。
| 用途 | オリジナル可否の目安 |
|---|---|
| 店内の装飾的アイコン(喫煙室・写真OK等) | 自由度が高い。ブランドに合わせてデザイン可 |
| トイレ・案内所などの案内系 | 定番デザインに寄せると伝わりやすい(可読性優先) |
| 非常口・避難・警告など安全系 | 規格準拠が基本。勝手に変えない |
| 車椅子・バリアフリー系 | 規格・自治体基準に準拠。用途で要確認 |
「おしゃれにしたい」気持ちは大切ですが、安全に関わるものは伝わることが最優先。オリジナル度を上げていいのは、伝達の失敗が命に関わらない範囲、と覚えておくと安心です。バリアフリー系の点字・触知サインの義務/任意の考え方は点字・バリアフリーサインの基礎でも解説しています。
インバウンド対応でのピクト活用と落とし穴
ピクトは、多言語表記の代わりに外国人へ伝えられる強力なツールです。ただし落とし穴もあります。JISとISOでデザインが異なる図記号があり、外国人には別の意味に見えることがあるのです。象徴的なのが温泉マーク。国際標準化の検討で「湯気の出た皿」が「温かい料理」に見えるとの指摘があり議論になりましたが、2017年に「日本式でもISO式でもよい」で決着しました。
実務では、ピクト+短い多言語テキストを併記すると誤解が減ります。インバウンド重視なら国際的に通じるデザインを選び、必要に応じて英語などを添える——このバランスが安全です。
素材・掲出方法と費用の目安
ピクトサインは素材で価格と質感が変わります。以下は一般的な目安です。
| 素材 | 1点あたりの目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 塩ビシート(貼付) | 1,000〜2,000円前後 | 手軽・低コスト。壁やガラスに貼る |
| アクリル | 3,000〜8,000円前後 | 厚みと透明感で上質。店舗内装に合う |
| ステンレス | 8,000〜15,000円前後 | 耐久・高級感。屋外や公共施設向き |
| LEDタイプ・突出しサイン | 仕様により高め | 暗所や誘導で視認性を高める |
※ 価格は一例で、サイズ・数量・取付方法・デザイン費により大きく変わります。取付費は別途です。正確な金額は看板屋・サイン会社の見積りでご確認ください。
掲出方法は、壁貼り・突出し(フラッグ型)・自立など、見せたい方向で選びます。館内でいくつも設置するなら、単品でバラバラに買うより、動線に沿って一式で設計したほうが、迷わせないサインになります。全体設計は案内看板・誘導サインの設計を参考にしてください。
よくある質問
Q. 非常口やトイレのピクトは、オリジナルデザインに変えてもいい?
A. 装飾目的の店内アイコンは自由度が高いですが、非常口・避難・車椅子など安全・バリアフリー系は規格準拠が基本です。用途と所轄の基準を確認してください。
Q. ピクトサインは何mm角にすればいい?
A. 視距離から逆算します。目安として、視距離1mで最小約35mm角、案内図上で最小約8mm角とされます(交通エコロジー・モビリティ財団の資料)。遠くから見せるなら大きめに。
Q. ピクトサイン1枚の費用は?
A. 素材で変わり、塩ビ1,000円〜、アクリル3,000円〜、ステンレス8,000円〜が目安です(別途、取付費・デザイン費)。
Q. JISとISO、どちらのデザインを使えばいい?外国人向けには?
A. 温泉マークのようにJIS/ISO併用が認められる例もあります(2017年決着)。インバウンド重視なら国際的に通じるデザイン+多言語併記が安心です。
Q. 色はどう決める?色覚が違う人にも伝わる配色は?
A. 緑=非常口、青=案内、赤=禁止、黄=注意の原則を守りつつ、明度差・コントラストを確保し、色だけに頼らず形や文字でも区別しましょう。
まとめ:ピクトは「規格・意味・サイズ・配色」で外さない
ピクトサインは、①安全系は規格準拠・装飾系は自由という線引き ②定番ピクトの正しい意味 ③視認距離から決めるサイズ ④色覚に配慮した配色を押さえれば、誰にでも伝わる強いサインになります。言葉に頼らず伝わるからこそ、インバウンドやバリアフリーでも力を発揮します。館内全体の動線づくりは案内看板・誘導サインの設計、種類全体の比較は看板の種類まるわかりガイド、地域の看板屋へ相談したい方は都道府県から看板屋をさがすからどうぞ。
関連ガイド:看板の種類ガイド/看板の法令ガイド/看板づくりガイド(総合)
※ 本記事は一般的な情報の解説です。規格(JIS・ISO等)は改訂で番号・内容が変わることがあり、安全標識・バリアフリー表示の要否や基準は施設用途・所轄行政庁・自治体条例により異なります。実際の採用・設置前に、最新の規格資料および各自治体・専門業者の情報を必ずご確認ください。



